「ウォレスとグルミット」の誕生秘話から現在に至るまでの歴史をご紹介します。
「ウォレスとグルミット」の物語は、ニック・パークの学生時代*に生まれました。それまで書きためてきたキャラクター、“ハンチング帽の男と猫”をもとに、卒業制作のアニメーションに取り組んだのです。
その後、猫は犬に変わり、最初に描いていた男性キャラクターから口ひげも消えましたが、“天才的な発明家とそのしっかり者の犬”というアイデアは、すでにニック・パークの学生時代に描かれていたのです。
研修で特殊効果について学んだニックは、“チーズを手に入れるため、自宅の地下室で作ったロケットで月を目指す男”を主役にした物語に取り掛かります。
その後ニックは、講演のため訪れたアードマン・アニメーションズの創設者、ピーター・ロードとディビッド・スプロクストンに、撮り終えたばかりのロケットのシーンを見てもらう機会がありました。
ニックのプロジェクトが、卒業制作のレベルではないと感じたピーターとディビッドは、アードマンでCM制作の仕事をする代わりに、スタジオのリソースを提供することを申し出たのです。
なんと、一つのエピソードを制作するのに、1年半もかかっていたのです。
*:国立映画テレビ学校
『チーズ・ホリデー(A Grand Day Out)』は制作開始から6年後(!)にようやく完成、1990年のクリスマスイブにチャンネル4*で放送されました。
ウォレスの特徴的な声を担当したのは名優ピーター・サリス。
ピーターは制作中から、ウォレスのキャラクター作りに協力してくれていたのです。
しかし収録後はすっかり音沙汰が無かったため、6年後に突然作品の放送日を聞いてとても驚いたそうです。
『チーズ・ホリデー』は、ニックのもう一つの作品『快適な生活~ぼくらはみんないきている~(Creature Comforts)』と共に大きな話題を呼び、両作品ともアカデミー賞®にノミネートされ人々を驚かせました。
結局『快適な生活』が短編アニメーション部門を受賞、ウォレスとグルミットの『チーズ・ホリデー』は多くの人の心をつかみ、次回作の制作がすぐに始まりました。
*:イギリスの地上波公共テレビチャンネル
デビュー作『チーズ・ホリデー』の成功をうけ、「ウォレスとグルミット」の次回作の企画がすぐに動き出しました。スケッチブックいっぱいのアイデアと、新たに迎えたボブ・ベイカーと共に、ニック・パークは新たな冒険に取り掛かりました。
ボブはニックのアイデアを一連のストーリーへと昇華させ、動物園のペンギンを強盗の黒幕に仕立て上げたのです。
さらに、人気アニメ*を手がけたスティーブ・ボックスも参加、ニックはウォレスとグルミットを、スティーブはフェザー・マッグロウ(ペンギン)を担当しました。
『ペンギンに気をつけろ!(The Wrong Trousers)』はクリスマスの『チーズ・ホリデー』に続き、1993年のボクシング・デー(12月26日)にBBCで放送されました。
スタイリッシュでキレのあるストーリー、ウィットに富んだ脚本、ディティールへのこだわりあふれる本作は、『チーズ・ホリデー』を上回る完成度の高さで大絶賛されました。
その後『ペンギンに気をつけろ!』は、アカデミー賞®を含む40以上の国際的な賞を受賞し、これまでに製作された短編アニメーションの中で最も成功した作品のひとつとなりました。
*:子ども向けアニメ『トラップ・ドア(The Trap Door)』
『ペンギンに気をつけろ!』の大成功をうけ、アードマンには次回作への大きなプレッシャーがかかっていました。
再びコンビを組んだニック・パークとボブ・ベイカーは、“ひつじ泥棒とロボット犬の登場するラブストーリー”という奇抜なアイデアに取りかかります。
そして本作『ウォレスとグルミット、危機一髪!』はよりドラマチックな展開で(飛行機、追跡劇、そしてひつじのショーンが初登場!)、以前の2作品とは異なり、多くのスタッフによって短期間に撮影されました。
演出担当スタッフが増えた結果、ニック・パーク自身はアニメーションを担当しませんでした。
1995年12月24日の初放送を記念し、BBCTwoでは番組の合間にも「ウォレスとグルミット」の短編が放送されました。
そして、『ウォレスとグルミット、危機一髪!』は、アカデミー賞®を含む30以上の賞を受賞しました!
1996年10月21日の夜、ニューヨークでプロモーション・ツアー中のニック・パークは、なんとタクシーのトランクにウォレスとグルミットのパペットを置き忘れてしまいます。ニックは報道陣に「親友を失ったような気分だ……」と語り、ニューヨーク中の警察署に呼びかけ、なんとタクシー協会もグルミットたちの捜索に協力。
幸い翌日、無事にニックの手元に戻ってきました。ふぅー、まさに危機一髪!
日本では、プッチンプリンのCMにウォレスとグルミット、そしてショーンが登場しました。アードマン・アニメーションズ制作のCMは日本でも人気を博しました。
ニック・パークが「ウォレスとグルミット」初の長編作品の準備に追われる中、次回作を待ちのぞむ声に応え、アードマンはウォレスの奇抜な発明品をテーマにした短編シリーズを制作。
長さ1分~3分までの10本のストップモーション・アニメーションで構成された『ウォレスとグルミットのおすすめ生活』は、イギリスでは2002年10月にオンラインで公開されたほか、クリスマス期間中BBC Oneでも放送されました。
各エピソードでは、ウォレスの新しい発明品と、それに対して半信半疑なグルミットが描かれています。
この作品は、間違いなくウォレスとグルミットにとって史上最大の冒険といえるでしょう。
ニック・パーク、スティーブ・ボックス、そしてボブ・ベイカーの新たなチーム体制で脚本に取り掛かかり、完成までにはさらに数名の執筆スタッフが参加。
お化けウサギのアイデアは、ニックとボブが『ウォレスとグルミット、危機一髪!』制作中の、"彼らの食料は何だろう?"という疑問から始まりました。
そう、巨大な野菜に違いありません!
実際、当初のタイトルは『The Great Vegetable Plot (巨大野菜の陰謀)』で、『ウォレスとグルミット、危機一髪!』の毛糸ショップの女性店主、ウェンドレンが再登場するはずでしたが、全く新しい物語に変更されました。
ウェンドレンの代わりにレディ・トッティントンが新たな恋の相手として登場し、「巨大野菜のコンテスト」をテーマに、「害獣駆除隊‐アンティ・ペスト」が誕生したのです。
構想から公開まで実に5年(!)を要した本作、撮影はすべてイギリス国内で行われ、苦労の連続だったといいます。
『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』は2005年10月14日に全世界3,000以上の劇場で公開され、全世界で3週連続興行収入1位を記録。制作の苦労が大きく報われることとなりました。
完成した作品にはオールスターキャスト:ピーター・サリス(ウォレス役)に加え、レイフ・ファインズ(ヴィクター役)、ヘレナ・ボナム・カーター(レディ・トッティントン役)、ピーター・ケイ(マッキントッシュ警部役)が出演しています。
本作は、世界中の観客やマスコミから大好評を博し、多くの栄誉ある賞とともに、ニック・パークに4度目のアカデミー賞®と長編アニメーション賞をもたらしました。
2005年10月10日の早朝、アードマンの倉庫のひとつから火災が発生し、小道具やセット、日本ツアーを終えて英国に戻ってきたばかりの「ウォレスとグルミット」全展示品など、アードマンの歴史に残る数百点が焼失。幸いにも、すべての作品フィルムは別の施設に保管されていて無事でした。
幸運なことに、この火事に怪我人はおらず、アードマンチームは動揺しながらも、感謝の気持ちも忘れませんでした。ニック・パークは、「貴重で思い出深いものを失い、会社にとっては悲惨なニュースでしたが、他の悲劇に比べれば、大したことではありません」と語りました。今でもこの倉庫火災は、アードマンの歴史の中で最も話題にのぼる出来事のひとつです。
ヨークシャー・デールの修道士が生産するローカルなチーズだった、ウェンズリーデール・チーズ。「ウォレスとグルミット」の登場によって、世界中に知られるようになりました。ウォレスたちの作品が放送されて以来、海外への輸出が23%以上増加したそうです。
ウェンズリーデール・クリーマリーのマーケティング・チーフ、サンドラ・ベル氏によると、「『ウォレスとグルミット』の登場で、イギリス産チーズ全体の認知度を高まり、特にウェンズリーデール社には大きな恩恵がありました。」
クリスマスにはウェンズリーデール・ショップでウォレスとグルミットのギフトが販売されるそうです。
これまでのウォレスとグルミットの大成功を受けて、2007年10月3日、彼らが2008年のクリスマスに、ベーカリーをテーマにした新しいアドベンチャーでテレビに戻ってくることが発表されました!
今回ニック・パークは、新しい冒険のテーマを殺人ミステリーに決めました。
この作品は2008年12月3日にオーストラリアで初公開、イギリスではクリスマスにBBC Oneで放映され、1,615万人もの観客を魅了しました。
本作は、アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされ、BAFTA短編アニメーション賞を受賞。全「ウォレスとグルミット」作品は、BAFTAを受賞、アカデミー賞®にもノミネートされています。
2009年11月4日、アードマンは、ウォレスとグルミットの『チーズ・ホリデー』のテレビ初登場20周年のお祝いをしました。
20周年を記念して、ウォレスとグルミットの二人はGoogleの検索トップページのドゥードゥル(Doodle)に登場、ウォレスの作業台で“Google”と綴りました。
ウォレスとグルミットは、2012年7月29日にイギリスでの特別公演に参加。
ウォレスが舞台裏でバタバタしている間に、グルミットは「マイ・コンチェルト in Ee, Lad(My Concerto in Ee, Lad)」という、スペシャルなバイオリン・ソロを初披露しました!また、史上初めて『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』が生オーケストラ伴奏で上映されました。2012年12月には、シドニー・オペラハウスでも開催されました。
ウォレスとグルミットで「グルミット・アンリーシュド」という募金活動を開始しました。
80体の巨大なグルミット像が、地元のアーティストや有名アーティストによってペイントされ、夏にかけて10週間、ブリストルの街に点在し、110万人以上の人々を魅了しました。
そして2013年10月、イギリスの公認競売人であるティム・ウォナコット主催の盛大なチャリティ・オークションに出品され、230万ポンド(当時の約3億6千万円)という驚くべき金額が集まりました。現在までに、「グルミット・アンリーシュド(Gromit Unleashed)」はブリストル小児病院への500万ポンドの募金に貢献し、今もなお活動継続中です。
2017年6月、ウォレスの声を担当した俳優ピーター・サリスが亡くなりました。
彼は世界中のファンを魅了し、その優しく特徴的な声はニック・パークの生み出したキャラクターに命を吹き込みました。
ニックは、「ピーターのユニークでチャーミングな個性と、愛嬌のある演技のおかげでウォレスが完成したのです。彼が『大変、クラッカーがない、グルミット!』、『このトーストは良く焼けてるね、グルミット!』、『チーーーーズ!』といったセリフが、ウォレスの大きな口の決め手になったんです。
ピーターのような人にはなかなか出会えません。彼はスクリーンの中でも外でもかけがえのない人でした。彼と出会えたことを心から誇りに思います。」と語りました。
ウォレスとグルミットの30周年を記念する特別な年。
『チーズ・ホリデー』は、1989年11月4日に初放送され、2019年はアードマン・スタジオにとっての30年の節目となります。この記念すべき第1作目と、これに続くウォレスとグルミットの冒険が、世界中のあらゆる世代のファンに愛され続けています。
待望の「ウォレスとグルミット」新作公開決定!(2025年公開予定)
ニック・パークとクリエイティブ・ディレクターのマーリン・クロシンガムが監督を務める本作では、いつもしっかり者のグルミットが、ウォレスが自分の発明品に依存しすぎではないかと心配になる様子が描かれます。
ウォレスの発明した"スマート・ノーム"が自らの意思を持つようになり、グルミットは邪悪な力と戦い、ご主人様を救うことに…… ウォレスは二度と発明できなくなるかもしれません……!
「ウォレスとグルミット」待望の長編映画のタイトルが発表されました。
あの《フェザー・マッグロウ》が帰ってくることに……!
「ウォレスとグルミット」シリーズ作品『Wallace&Gromit:Vengeance Most Fowl(原題)』は、
この冬にイギリスのBBCとNetflixで全世界で初公開予定。